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森のDNA

1. はじめに

山口はどこにいても森が目に入ります。普段何気なく目にしながらも足を踏み入れることの少なくなった、近くて遠い森に、「DNA」をキーワードにもっと深く入ってみましょう。

今回は「森のDNA」をテーマに、山口の森にすんでいる植物や昆虫に焦点をあてて調べていきます。そして今回もその方法をオープンに共有します。

DNAとは

どんな生き物も、それぞれの設計情報を記した「DNA」を持っています。DNAは小さくて目では形を確認できませんが、ひも状の二重らせんの構造をした物質です。4種類の物質の並び方によって情報を記録していて、その情報を解読していくことで、生き物の遺伝的な特徴などを知ることができます。そのため、現在世界中で多くの生き物を対象にDNAを解析する試みが行われています。

DNA技術を取り巻く状況

DNAの構成要素であるアデニン・チミン・グアニン・シトシンと名付けられている物質の並び順を読み取り、それぞれA・T・G・Cといった文字の列に変換することを「DNAシーケンシング」と呼びます。DNAをデジタルの文字列で表現できるようにすることで、コンピュータや情報技術を使って、生き物について考えることができるようになります。このDNAシーケンシングのコストが、この15年間で10万分の1の価格まで下がり、個人でも手が届くようになってきました。

2. 方法「森に入る」

山口の森には一体どんな生き物が住んでいるのでしょうか。実際に森に入って、研究者と一緒に観察したり、生き物の形やDNAを調べたりします。

観察する視点

舞台はYCAMから車で約30分の、山口市仁保(にほ)上郷にある森です。森の奥には落差20メートルの「犬鳴(いぬなき)の滝」があり、そこから流れる川は森と里をつなぎ、仁保川に流れ込んでいます。山や里によくいる生き物に加えて渓流系の生き物もすんでいる豊かな森であり、典型的な山口の里山の風景が広がっています。専門家は森をどうみるでしょうか。今回ははじめに山口県立山口博物館の研究者・田中浩さんに視線カメラを装着してもらい、森に生息している生き物のことや、その採集方法についてお伺いしました。

「形や模様」による調べ方

森で出会った生き物について、その名前や種類を知りたいと思ったとき、どのような手掛かりがあるでしょうか。そのひとつの方法として、生き物の特徴的な形や模様を観察(写真・映像撮影、採集・標本制作、顕微鏡による観察など)して、これまでの調査データが蓄積されている図鑑を使って調べていくことが挙げられます。しかし、専門知識や熟練の技術が必要となる場合もあります。

「DNA解析」による調べ方

生き物の名前や種類を知る方法として、最近ではDNA解析による調査も行われています。本展示「はじめに」でも紹介したDNAシーケンシングを活用した技術で、「DNAバーコーディング」と呼ばれています。この技術は、生き物のDNAから、種(しゅ)の違いを判別しやすい領域を読み取り、インターネット上に公開されているDNAのデータベースと照らし合わせることで、名前や種類の分からない生き物についての種の特定をすすめる技術です。

3. 結果「生き物を知る」

DNAバーコーディングという手法を使って、いくつかの採集した生き物について調べることができました。

DNAバーコーディングの手順

  1. 森で植物などの生き物のサンプルを採集します。

  2. サンプルを細かく粉末状にし、DNAを取り出すための試薬キットを用いて、DNAを抽出します。(約60分)

  3. 抽出したDNAのうち、種の特定のために標準化された領域*(DNAバーコード)のみを「PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)」と呼ばれる、DNAを増幅する方法をつかって増やします。(約90分)* 植物では葉緑体のrbcLやmatK、昆虫ではミトコンドリアのCOIと呼ばれるDNAの領域を利用しました。

  4. 「アガロースゲル電気泳動」と呼ばれる方法を用いて、DNAを大きさで分離します。(約60分)

  5. 紫外線トランスイルミネータで目的のDNAを確認し、ゲルから切り出して精製します。(約30分)

  6. 準備したDNAを、「DNAシーケンシング」解析サービスに送付し、A・T・G ・Cで略される文字列の情報に変換しました。(約3〜4日)

  7. バイオインフォマティクスでDNAの類似した部分を並べて照らし合わせることができる「BLAST」と呼ばれるプログラムを利用して、データベース検索し、生き物の種の特定をすすめました。今回は、米国のNCBI(国立生物工学情報センター)や日本の国立遺伝学研究所が提供しているサービスを利用して検索しました。

4. 考察「図鑑を作る」

今回調べてわかった情報は、図鑑としてまとめ、後日インターネット上に公開する予定です。私たちの身近にある森が、より豊かに見えるようになるかもしれません。

形とDNA

今回、生き物の名前や種類を調べるために、特徴的な形の観察とDNA解析に取り組みました。形が似ていてDNAも似ている場合もあれば、形が似ていてもDNAでみると遠い種である可能性もあり、両方をあわせて調べていくことが大切です。また、生き物は他の生き物や周辺環境との相互の関係性の中で常に変化して存在しています。その関係性を総合して捉えていくことで、あたらしい森の見方ができるかもしれません。

森のDNA図鑑

私たちが何気なく見ている森の風景にも、たくさんの情報が眠っています。本プロジェクトでは、自分たちで採集した情報をもとに、オンライン図鑑(「森のDNA図鑑 仁保の森 2016」)をつくっていきます。このウェブサイトでは仁保の森のある地点から、ぐるっと360°の風景を見渡すことができ、「森のDNA」ワークショップ参加者と一緒に採集した生き物の情報を引き出すことができます。

今後の取り組み

今回は、生き物単体を対象にDNA解析による種の推定を行いました。次回、vol.4「ヒトと共生微生物」では、土壌微生物のメタゲノム解析を行い、そこに存在する全ての種を調べ、複数の生物間でどのような関係性が生まれているのかを探ります。また、vol.5「生物とプログラミング」では、プログラミングといった切り口で生物を調べます。DNAやゲノムの情報から何がわかるのか、今後どのような活用方法があるのか、専門家とともに考えていきます。