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パンと酵母

1. はじめに

パンづくりで重要な役割を果たす「酵母」。この微生物は発酵という形で昔から人々の暮らしに深く関わってきました。現在、酵母はドライイーストとして市販もされていますが、実は私たちの身の回りにも数多く生息しているようです。

私たちが日頃から食べているパンの中にはたくさんの空洞があります。酵母がパンの生地の中にある糖類を分解し、炭酸ガスを出すことでこの空洞ができ、パンがふくらみます。これがパンのひとつの食感を作り出すことにつながっています。

酵母は酸素のない環境におかれると、糖類を分解し、アルコール(エタノール)と炭酸ガス(二酸化炭素)を作り出します。多くの発酵食品がこの働き「発酵」を利用して作られています。生活にも身近で、研究の分野でもよく利用されている酵母ですが、実は私たちの身の回りにも数多く生息しているようですが、その生息環境に関してはまだわかっていないことも多いようです。

酵母を集める方法について、本を調べたり、大学や研究機関の専門家に話を相談に行きました。そして「培地」と呼ばれる、微生物の栄養を液体や寒天状にしたものを使うことで、その栄養で育つことのできる微生物を育てることができることが分かりました。また、寒天の培地で微生物を育てると、「コロニー」とよばれる微生物の小さなかたまりが作られ、これをとることで、ある微生物を他の微生物から分離できることもわかりました。さらに分離した酵母を長期間保存する方法や、DNAを抽出して読み取り、解析することでその種類を調べる方法もわかりました。

2. 方法「酵母ハンティング」

では、どういう場所にどんな種類の酵母が生息しているのでしょうか。実際に地域に出掛けて、酵母が生息していそうな花や土からサンプルを採集して育て、観察してみることからはじめてみましょう。

酵母が生息していそうな花や土などのサンプルを見つけ、採取し、培地を用いて培養を試します。培地の栄養が酵母に適していれば、その酵母が増えて、目や顕微鏡で見ることができるようになるはずです。酵母用の培地ミックスを購入し、液体培地、寒天培地の両方を作成します。どちらにも酵母以外の微生物が生育しづらい抗生物質を入れます。サンプルを液体の培地に漬け、酵母の成長に最適な温度(30℃)で育て、気泡やモヤッとしたものを確認したら、少量の液体をとって寒天の培地に薄く塗ります。

今回はいくつかの方法を使って、酵母の存在と、その種類を調べます。

  1. 液体培地の気泡を観察します。
  2. 寒天培地の上に現れた、コロニーの形状を観察します。同時にシャーレの匂いも観察します。
  3. 顕微鏡で微生物の形やサイズを観察します。
  4. ドライイーストの代わりに、採取した微生物を使ってパンを作ります。
  5. コロニーをとってDNAを抽出し、それをDNA読み取りサービスに送ります。送られてきた読み取り結果をインターネット上のDNAの配列データと比較解析することで、そのコロニーがどのような微生物か調べます。

3. 結果「山口で見つけた酵母」

目でみたり、匂いをかぐといった観察の他に、顕微鏡やDNA解析を使って、酵母が実際に生息していることを調べることができます。今回実施した方法で、採集したサンプルからいくつか酵母と思われる微生物を見つけることができました。

山口情報芸術センターを中心に、山口市内の観光名所などからサンプルの採集を行いました。

観察の結果、酵母らしき微生物を見つけることができました。

  1. 液体培地では、サンプルを漬けてから早いものでは約一日でたくさんの気泡を観察することができました。
  2. 寒天培地の上に現れたコロニーの形状は、異なる大きさ・色・ツヤなどを観察することができました。またいくつかの種類の匂いを観察できました。
  3. 顕微鏡を使って約600倍の倍率で観察したところ、酵母らしき微生物を観察することができました。
  4. 育てた微生物を使ってパンを作ってみたところ、ドライイーストよりも膨らみは遅いものの、パンの生地が膨らむことを確認することができました。
  5. DNAの配列データをインターネット上のサービスを使って検索すると、配列から推測される生物種のリストが表示されました。可能性が高い順に並べられたリストの上位は酵母で、採取した種は、酵母である可能性が高いことが分かりました。

4. 考察「酵母とのこれから」

酵母はどのように運ばれているか、地域や季節による生育の違いなど、関心は広がります。また、微生物の採集を通じて、地域の眺め方や都市にある自然のこれからを考えることもできるかもしれません。

酵母は自分では移動をしないため、虫や鳥に付着して運ばれているのだと考えられます。これが花から多くの酵母らしき微生物がとれた理由かもしれません。

今回の酵母の採取、培養、観察、解析、保存のプロセスを多くの人が自分たちで体験できるように、「Open Yeast Protocols(オープン・イースト・プロトコルズ)」としてインターネット上で公開しています。YCAMバイオリサーチの活動にあわせ、定期的に更新していく予定です。誰でもキッチンから微生物のDNAを調べることができれば、生活に応用していくことができるはずです。

今回は酵母以外の微生物は生育しずらくなるように、培地に抗生物質を入れて、サンプルに付着した微生物を育てました。抗生物質の他にも、培地に含まれる栄養を変えてみることで、他の微生物も育てることができます。次回 vol.2「発酵とDIY」では乳酸菌などを含む他の発酵微生物にも着目してみます。